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  • 2018年9月4日(火)
  • 売上:68,000円 営業回数:19回
  • チップ:-450円
※売上金額は100の位以下は四捨五入

9月4日はご存知を通り、台風21号の接近により強風に見舞われた天気となった。
タクシードライバーの間では「全然お客を拾えなかった」という声もあれば、「入れ食い状態だった」という声もあり、二極化したようだった。

朝は例のごとく遅刻して点呼に出られず、8時30頃の出庫。
東武東上線沿いの道を走っていたら、無線が鳴る。

本日一発目のお客さんは、上板橋~丸の内までのサラリーマン。
北池袋から高速に乗って飯田橋で降りた。

飯田橋で降りたのはナビの案内によるもので、俺的には一ツ橋で降りた方がいいように思われたのだが、自信がなかったのでナビの指示に従った。
お客さんからは特に何も言われなかった。

ナビが間違っているケースなどいくらでもあるので、念のため後で確認しておこうと思う。

丸の内で降りたので、丸ビル前の客待ちタクシーの車列に並ぶ。
タクシードライバーになって3年目だが、ここに並ぶのは初めてだ。

前には5台くらいのタクシーがいたが、どんどん捌けていく。
取引先へ行くビジネスマンがどんどん乗っていく。

俺のタクシーにも乗ってきた。並んでから5分程度でだ。
若いサラリーマン4人組み。行き先は茅場町。

口の利き方が微妙に尊大で、歌舞伎町辺りのDQNとはまた違った種類の不快さがある。
そして、こういう感じの若手サラリーマンに遭遇するのはこれが初めてではない。

ま、大組織に所属していることによる、ある種の万能感が、彼らをしてこういう態度を取らせているのであろう。

茅場町で4人組を降ろした後、新大橋通りを流していたら、無線が鳴る。
迎え先は箱崎の某ビルの車寄せ。

お客様は外国人ビジネスマン2人組。
虎ノ門のビルまでお送りし、そのままそこの車寄せで30分待機。会議を終えて戻ってきた2人を元の場所へお送りするという簡単なお仕事。これで約8,000円をゲット。

2人を降ろしてビルを出ようとしたら、別のサラリーマンから手が挙がる。
お乗せして浜松町の某ビルへ。効率のいい営業だ。

お客様を降ろした後、一回目の休憩を取る。

午後は特に記憶に残る営業はない。
強いて言えば、低単価な仕事ばかりだったということだ。

ただ、数はそこそここなすことが出来た。
買物帰りのお客を自宅までお送りするつもりで、下る方向で流した。

二回目の休憩は青山霊園でとる。
休憩を終えた時刻は19時30分頃。
風が徐々に強くなり、雨粒が舞うようになっていた。

外苑東通りを信濃町方向に流していたら、権田原交差点の辺りで無線が鳴る。
迎え先は南青山一丁目。送り先は千葉市美浜区。


キターー( ゚∀゚)ーーーーーーーーーー!!!


驚きがありつつも、一方では「これだけの異常な強風だから」と納得する気持ちもある。
きっと、「今日は早めに帰ろう」という人々により、電車はめちゃくちゃ混んでいるにちがいない。むろん、座ることなどできないだろう。

カネに余裕のある人は、タクシーに乗ってゆったり帰るのも手だ(必ず座れるのが大きな利点)。

お客様は若いサラリーマン。
丸ビル前で乗ってきた四人組とは異なった、平々凡々な雰囲気。
言葉遣いも普通。

迎え先に到着した時点で、風は凄まじい勢いになっており、車の中にいても轟音が聞こえてくる。
中からドアを開けると、すぐにお客様が入り込んできた。

「ドアサービスできなくてすみません!」
「ああ、別にいいですよ」

これだけ風が強いと、高速道路も通行規制がいつ掛かるか分からない。
「さっさと行きましょう」
そう言って発進し、外苑から高速に入った。

高速を走っている最中、強風に車体を揺らされて、脂汗をかきながらの運転となった。
常に左右に揺さぶられ、時折強い突風に押されて隣の車線に車が流されそうになる。

なるべく、隣の車線の車とは並ばないようにした。
ただし、トラック等の大きい車に対しては風除けになると思い、むしろ並走した(今思うと、危険だな)。

美浜区のご自宅までお客様を送り届け、再び高速に乗って東京に戻る。
あまりに風が強く、必要以上の高速走行は危険だと思い、豊洲出口から一般道に降りる。

豊洲駅前で付け待ちでもしようかと思ったが、豊洲出口との位置関係を誤認し、晴海の方へ行ってしまう。

どこかでUターンして豊洲駅前へ行こう、と思っていたら、無線が鳴った。
迎え先は晴海。行き先は浦安。
結構な金額になる仕事。ただし、下道だが。

有明通りから湾岸道路、という経路で浦安に向かった。
高速で美浜へ行った時とは異なり、渋滞にイライラさせられた。

浦安のマンションの車寄せでお客様を降ろした後、高速に乗って再度豊洲出口へ。
三回目の休憩を公園沿いの路上でとる。

休憩後、豊洲駅前のタクシーの車列に並び、10分程度でお客様をゲット。
570円の短距離客。

都心で営業しようと思って永代通りに入り、茅場町付近に差し掛かったところで非常識な客と出会ってしまった。

見た目60~70代くらいの老人。

車に入るなり、「近くの安いホテルに行ってくれ」と言う。しかも、運賃は千円以内で。
さらに、「サウナの付いたホテルがいい」と注文をつける。

お客の方ですでに予約を取っており、そこへ行くのなら話は分かる。
しかし、そうではなく。ホテルを探す作業からタクシードライバーにさせようというのだ。

この老人、すでに一件予約なしでホテルのフロントに飛び込み、満室である旨伝えられ宿泊を断られている。
さらに、俺の前に乗った(正確には、乗ろうとした)タクシーのドライバーにホテル探しをさせようとして断られている。

「あの運転手の名前は憶えたからな。社長に苦情を伝えてやる」

そのドライバーが断ったのは、当然の対応だ。
それを「社長に苦情」とは、逆恨みもいいところだ。

実を言うと、こういう客に遭遇したのはこれで二度目である。
最初のケースの客は、北海道から来た若者だった。遭遇したのは、歌舞伎町。風林会館前の交差点。

ナビの画面に歌舞伎町周辺のホテルの一覧を表示させ、俺が電話番号を伝えて、お客が片っ端から電話で部屋の空きを問い合わせる、という作業を行った。
結果として、歌舞伎町のホテルは全滅。最終的には高円寺の駅ビルのホテルに空きが見つかってそこへ送っていった。

今、車内に設置しているナビはその当時のものとは別の機種だが、不可解なことにホテルの住所や電話番号などを表示させることができない。
現在地から近い順に表示させることはできるが、電話連絡して部屋の空きを確認しなければ意味がない。

「千円以内で行け」というオーダーである。
距離的には、今いる場所から半径2キロ弱に位置するホテルに問い合わせればいい。

ナビの画面に表示されたホテル名をスマホで検索する。ホテル情報のサイトが表示され、すぐに電話番号が分かった。

「すみません。私、タクシーの運転手なんですけど、今そちらのホテルに泊まりたいというお客さんを乗せているんですけど、部屋の空きはありますでしょうか」
「申し訳ありません。ただ今満室になっております」

予想通りの反応。
なにせ、時間が時間である。

1件目はだめだった。2件目。
それにしても、スマホ回線の速度が遅く、画面表示に時間がかかる。

「わし、寝てるから。ホテル取れたら起こしてや」

このジジイ!!!!!!!!!

北海道の若者の場合は、ホテル探しの作業を一緒にして、見つかった時には「良かったね」という気持ちになった。

それに引き換え、この老人はなんて非常識で甘ったれているのか!

ホテル探しは2件で断念。アホらしい。

「この辺はどうもなさそうですね」
「だったら、歌舞伎町へ行ってくれ。そこに有名なサウナがあるから」
「……じゃあ、とりあえず歌舞伎町に行きますから。詳細な場所は近くに来たら教えてくださいよ」

不安な気持ちで車を発進させる。
しかし、すぐに停車させられた。

「そこのローソンで紙袋を買ってきてくれや。領収書を持ってくればお金は渡すから」

そうやって段々要求をエスカレートさせていき、最終的には何を求めるつもりなのか。

「袋だったら、持ってますよ。それ、差し上げましょうか」
「おお、そうか! ありがたい」

ラゲージルームのデッキボードを上げ、私物のバッグからレジ袋を取り出す。

「どうぞ」
「…………こんなんだったら、ええわ。恥ずかしい」
「……すみません( ´_ゝ`)」

老人の姿を間近で見る。
浅黒い肌に金色のネックレスを首に巻いている。ちょっとヤンチャ入った感じ。
歌舞伎町や道玄坂辺りでイキってるガキどもの将来の姿なのだろうか。

紙袋についてはこれ以上何も言われず、再び車を発進させた。

「ここから歌舞伎町まではいくらくらい掛かるんだ?」
「ちょっと待ってくださいね……距離さえ分かれば大体の金額が分かりますので」

再度車を停め、ナビで歌舞伎町の風林会館を目的地に指定する。距離が表示される。

「だいたい5,000円くらいでしょうか」
「だったら、行ってくれ」

車を発進させる。
しかし、昭和通りの手前の辺りで「やっぱ蒲田に帰るわ」と言い出した。

「蒲田のどの辺りですか」
「西口。工学院の辺り」
「じゃあ、そこまで行きますので、そっから先の詳しい道順は教えてくださいよ」
「分かった」
「あ、ちなみに、そこまでのお金は持ってるんですか」

「ホテルまで千円以内で行け」という老人である。
蒲田まで行けるだけの金を持っているとは思えない。

「大丈夫だ。そのくらい持っとるわい」

蒲田に着いた後グダグダ言って支払いをしないようなら、即交番に駆け込んでやる。

昭和通りに入り、アンダーパスを通って、新橋から第一京浜に出る。そこから蒲田までは、しばらくまっすぐである。

その間、老人はずっと自分のことを話しまくっていた。

先日まで北海道に行っていたこと、襟裳岬で入水自殺を図ったが死ねなかったこと、地元の人に助けられ、さらに勤め先の社長から心配する電話が掛かってきたため自殺を諦めて東京に戻ってきたこと……。

俺は、返答に神経を使った。
この老人がただのホラ吹きの可能性もあるが、話している内容が事実なら相当ナーバスな精神状態になっていると思われる。

特に「なんで自殺しようと思ったんですか」とは絶対に聞くまい、と思った。
「自殺を図ったことを責められている」と誤解する可能性があるし、ただでさえネガティブな話がさらに暗く絶望的になるような気がしたからだ。

それよりも、助けてくれた地元の人の優しさや、「社長が心配して電話してきたのは、お客様が必要な存在だから」など、前向きな方向で言葉を発した。

前向きで、かつ話を膨らませず、終わらせる方向で。

それでも老人は話しまくる。
途中、「飲んでいいか」と聞くので、「どうぞ」と答えると、缶チューハイを開けて飲み始めた。
いっそ、寝ちまえよ。蒲田まで寝ててくれ。

それでもなお、老人は話しまくる。
「俺のアパートはルンペンみたいな奴ばっか住んでるところで、もう死ぬつもりだったから、家にある物はみな、奴らにくれてやってきた。だから、部屋がどうなっとるか分からんな」

自分の人生も命もどうなったって構わない、という投げやりさが感じられた。

無敵の人」というフレーズが脳裏に浮かぶ。
この老人は「無敵の人になりかかっているな」と思った。

自殺を考えるくらい自分の命に無関心なのだから、他人のことなど尚更どうでもいいだろう。
車に乗り込んできたときの身勝手な要求や、傍若無人な態度の背後にあるものを理解できた気がした。

とはいえ、この老人への警戒心が解けたわけではなく、むしろかえって深まった。
目的地についた途端、強盗殺人犯に豹変する可能性もあるのではないか。

俺は、非常点滅灯のスイッチを触って、位置を確認した。

京急蒲田の駅前に到着した。
「もうすぐJR蒲田駅の西口に到着しますよ」
「おっ! もう着いたか! 早いな!」
上機嫌で答える老人。

工学院前の交差点からは、老人の案内で自宅アパートまで。
狭くて曲がりくねった路地にあるボロアパートだが、蒲田駅からの距離は近く、生活はしやすいだろう。家賃は意外に高いかもしれない。

周囲に人の気配はない。

メーターの表示を読み上げ、請求する。金額は8,000円余りだ。
財布から金を取り出す老人の動作は緩慢でイライラさせられたが、万札を出されてお釣りを返す。老人は「悪かったな」と言い、お釣りのうち1,000円をチップとしてくれた。迷惑料のつもりなんだろうが、確かに迷惑だった。

ここまでの道中、散々話を聞かされ、彼の不幸な人生の一端を知ることになってしまったのだが、特別な挨拶はせず、忘れ物をしないよう注意を促す。

注意したそばから、タバコやら携帯やらを車内に置いていきそうになり、慌てて呼び止める。

面倒くさそうに忘れ物を拾い上げると、「ありがとな」と言ってボロアパートの入口に入っていった。

その姿を確認すると、大急ぎでその場を離れた。
何か理由をつけて戻ってこられても迷惑である。
こんな面倒な客は本当に久々に乗せた……。

蒲田で営業する気にはならず、第一京浜に出ようとしたところで無線が鳴る。

迎え先は、東邦医大通りから内側に入った住宅地の中にあるマンション。
お客は中年のサラリーマン。ガッシリ体型で重役のような雰囲気がある。
若い女が見送りとして、お客のそばについてくる。愛人関係だろうか(余計なお世話だが)。

行き先は横浜。JR山手駅の周囲に広がる、細い路地が入り組んだ住宅街の一角が目的地。ナビの案内で進行したものの、最初の経路確認でお客の説明を聞き漏らしたようで、遠回りになってしまった。

ナビが提示する経路はあまりに遠回りで「くっそ遠回りやん」と不機嫌なご様子。

「すいません。都内だったら、あまりにおかしい経路はすぐに修正かけるんですけど、横浜はさっぱり分からないので……」と苦しい言い訳。

実は、山手駅に来るのは2回目だ。
1回目は、無線客として乗せた某大手建設会社の重役を送っていった時。入り組んだ狭い道や一方通行に悩まされ、なかなか大通りに出られなかったことを憶えている。

ご自宅でお客様を降ろす。
お詫びとして、いくらかの値引きをさせてもらったが、それでも「こんなに高くなるか?」と不機嫌な様子で自宅マンションに入っていった。

帰庫時間はまだある程度残っている。
すぐに東京に戻ったら、ミドル1本くらいはやれそうだ。

そう思ったものの、あたかも悪意があるかのような山手駅周辺の一方通行で意図しない方角へ行ってしまう。さらには、クルマがぎりぎり通れる程度の路地に入った挙句に行き止まりで、申し訳程度のスペースを使って何度もハンドルを切り返して脱出する等、時間を大幅に奪われてしまった。

大きな通りに出た時には、安堵して大きなため息をついた。身体が汗まみれになっていた。
営業できる時間はもうない。それどころか、帰庫時間に間に合うかどうか(結果として間に合わなかった)。

営収自体は良かったものの、不本意な形で一日を終えることとなった。
神奈川方面でミスをすることがしばしばあるので、暇を見てちょっとずつ勉強していこうと思う。